犬落しの鹿肉を返させる山犬
どんな伝承か
明治一七年の秋、遠山谷和田の石田徳衛門が、村から一キロほど離れた小池山の山中で犬落しの鹿肉を拾い、家へ持ち帰った。この鹿肉を近所や親類に大盤振舞したまではよかったが、その夜、徳衛門の家の周りで山犬が吠えたり唸ったりして騒ぎ立てた。恐れを感じた徳衛門が翌朝、鹿肉の残りを拾った場所へ返しに行くと、その夜から山犬の騒ぎはやんだ。山犬は犬落しを猫ばばされると、失敬した者の家の周りに来て必ず吠え唸り、返却を迫るものだという。昼のうち山中の見晴らしのよい高みから、食べ残した鹿肉をじっと監視しているからだと言われる。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 10 狼・山犬、猫(松谷みよ子・現代民話考)
『現代民話考 10 狼・山犬、猫』は、松谷みよ子が日本民話の会の『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞き書きで全国から集めた話を編んだ現代民話の資料集である。明治以降を目安に、狼への畏れと信仰、送り狼や千匹狼、化け猫や猫の踊り、戦中の猫の供出、水洗トイレを使う猫までを収める。序文と各章の前文に続いて「狼・山犬」「猫」の二章を主題別の節に分け、各話例の後に類話の採集地・話者・出典を「分布」として並べる。