川辺の小屋にいると言い張った彫刻家
どんな伝承か
昭和五十六年に亡くなった飯田市の彫刻家・倉沢興世(八十五歳)は、救急車で病院へ運ばれてから三日間意識が混濁していた。ふと目覚めるたびに「ここはどこだ、川が流れているじゃないか」「私は今その小屋に寝ているんじゃないか、少年時代に住んでいた泰阜の家へ帰るんだ、タクシーへ電話してくれ」と口にした。夢の中のはずなのに現実のタクシーの電話番号を口にしたため、付き添っていた家族は驚いたという。翌日には「大きな蜂の巣がある」「大きな川をどう渡ればいいんだ、大勢が舟に乗っている」などと話し、そのまま一時は回復したものの、間もなく亡くなった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・2003年(平成15年))
『現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話』は、松谷みよ子が編んだ現代の民話の聞き書き集で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。一九七八年に発刊された『民話の手帖』を通じて全国から寄せられた回答を中心に、臨死体験、死の知らせ、寺へ来る死者、生まれかわりの話を収める。「あの世へ行った話」「死の話」「生まれかわり」の三章の冒頭に編者の論考を置き、細目ごとに所在地・話者・出典を添えた類話を並べる。