投げ殺した猫の爪痕と武の急死
どんな伝承か
武という元気者は、木出しで木馬に足を怪我したり、消防の出初式で酔って炬燵で大火傷をしたりしても達者で、近頃は製材所へ通っていた。うっすら雪の降った寒い朝、皆で焚火にあたり、さあやろうと言って外へ出るなり脳溢血で倒れ、二、三日して死んだ。しばらくして、あれは猫の祟りだろうという噂が立った。前の晩、武の家に猫が入って来たのを、武は何か気に入らぬことがあったとみえ、引っ掴んで外へ出て力いっぱい投げた。猫は道路を越えたはるか向こうの柿の木に体をぶつけ、幹を爪で引っ掻きながら落ち、血を吐いて死んだ。女房が幹の血を落として死骸を始末したが爪痕は残り、武が倒れたのはその日であった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 10 狼・山犬、猫(松谷みよ子・現代民話考)
『現代民話考 10 狼・山犬、猫』は、松谷みよ子が日本民話の会の『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞き書きで全国から集めた話を編んだ現代民話の資料集である。明治以降を目安に、狼への畏れと信仰、送り狼や千匹狼、化け猫や猫の踊り、戦中の猫の供出、水洗トイレを使う猫までを収める。序文と各章の前文に続いて「狼・山犬」「猫」の二章を主題別の節に分け、各話例の後に類話の採集地・話者・出典を「分布」として並べる。