おはら川の仕事場を揺るがした見えぬ狼の群れ
どんな伝承か
十六ほどの頃、大塔の向こうの、熊野川町の小口の方のおはら川というところで、大勢の人と一緒に仕事をしていたときのことである。狼の群れが来たのだという。ところがどこにも狼の姿は見えないのに、家が鳴り響くほどの振動が起こり、吠吼とでもいうような、何ともいえない大きな声が聞こえた。大勢いたのに、外へ出て確かめる勇気のある者は一人もいなかった。七十いくつまで生きてきたなかで、あれが何であったのかは今考えても分からず、生涯でただ一つの不思議だと語る。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 10 狼・山犬、猫(松谷みよ子・現代民話考)
『現代民話考 10 狼・山犬、猫』は、松谷みよ子が日本民話の会の『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞き書きで全国から集めた話を編んだ現代民話の資料集である。明治以降を目安に、狼への畏れと信仰、送り狼や千匹狼、化け猫や猫の踊り、戦中の猫の供出、水洗トイレを使う猫までを収める。序文と各章の前文に続いて「狼・山犬」「猫」の二章を主題別の節に分け、各話例の後に類話の採集地・話者・出典を「分布」として並べる。