井黒さんと観音さんの間の狸の提灯
どんな伝承か
徳島県美馬郡半田町の土井広一の話。大正の一〇年ごろであった。親類の家で泊まっていると、おばが起こしに来て「あれが狸の火じゃ、見てみい」と言う。山手の方を見ると、井黒さんと観音さんの間を五つ六つ提灯が動いている。ところがそう見えるだけで実は動いておらず、手前の木の間から透かして見るとひとつも動かない。ぼんやりした火で後光も射さない。狸が葬儀のまねをしているのだと言っていた。ニワトリが鳴くとみな消えてしまった。狸の提灯行列は川の向こうや谷の向こうなど、すぐには行けない所でないと出ないらしい。自分が一五、六の時分のことで、おばも一緒に見たので間違いないという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 11 狸・むじな(松谷みよ子・現代民話考・1995年(平成7年))
『現代民話考 11 狸・むじな』は、松谷みよ子が一九九五年(平成七年)に編んだ現代民話の資料集である。明治から現代までに各地で語られた狸・むじなの話を、聞き書き、読者の回答、郷土誌や民話集、新聞記事から集める。狸火、腹つづみ、音まね、いたずら、化かし、たたり、人助け、戦争にいった狸、今の暮しなど十二の部に分け、話例ごとに本文と類話の「分布」を添え、巻頭に序文と前文、巻末にあとがきを置く。