五台山の闇で妹に化けた狸
どんな伝承か
明治三十六年頃の静かな晩、筆者は夜囃し倶楽部の泊まり家から家へ帰る途中だった。道には五台山の雑木林が垂れ込んだ寂しい所があり、釜場の石垣と共同便所に枝がかぶさって暗かった。倉庫の角を曲がろうとしたとき、掃きだめのそばに妹の小春が立っているのが目に入った。おかっぱ頭をうなだれて泣いているようで、昼間着ていた縞の着物の柄まで見えた。叱られて締め出されたのかと思いつつ声をかけずに家へ入り、マッチを擦ると、妹は母と並んで寝ていた。筆者は震えながら布団をかぶった。後年、同じ部落の未吉ちゃんに話すと、倉谷の山の狸が小春に化けたに違いないと言われたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 11 狸・むじな(松谷みよ子・現代民話考・1995年(平成7年))
『現代民話考 11 狸・むじな』は、松谷みよ子が一九九五年(平成七年)に編んだ現代民話の資料集である。明治から現代までに各地で語られた狸・むじなの話を、聞き書き、読者の回答、郷土誌や民話集、新聞記事から集める。狸火、腹つづみ、音まね、いたずら、化かし、たたり、人助け、戦争にいった狸、今の暮しなど十二の部に分け、話例ごとに本文と類話の「分布」を添え、巻頭に序文と前文、巻末にあとがきを置く。