次の部屋を食べよと言った貿易商
どんな伝承か
明治の始めごろの横浜。貿易商の某は商売柄「今日は結構なお天気でございます」ほどの英語は話せるようになった。その年の天長節に盛大な祝宴を張り、得意先の英米の商館主人らを招いた。仕立て下ろしの燕尾服で現れた主人は、「何も召し上がるものもございませんが、次の部屋へ席を設けました」と言おうとして、「次の部屋を喰べたまえ、何も喰べるものはないが」と言い放ち、一同顔を見合わせて唖然とした。この失敗はたちまち居留地の噂となり、宴会のたびに「次の部屋を喰べよ」が大流行したという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 12 写真の怪・文明開化(松谷みよ子・現代民話考(立風書房)第十二巻・1996年(平成8年))
『現代民話考 12 写真の怪・文明開化』は、松谷みよ子が一九九六年にまとめた現代民話の資料集で、同シリーズの第十二巻にあたる。雑誌での呼びかけやアンケート、聞き書きで寄せられた話と新聞・雑誌の記事を、心霊写真をめぐる怪異と、明治以降の電信・汽車・電気燈などの新しい文物や流行病に戸惑う人々の話に分けて収める。話例ごとに本文を掲げて各地の類話を分布として並べ、話者や回答者の名と出典を添える。