乳房を示されて子を放した幽霊
どんな伝承か
伊達郡に伝わる子育て幽霊の例話は、別伝との複合転用によって筋が屈折しているという。幽霊がどうしても子を放さなかったのを、この世の乳の出る女の乳房を示し、これで育てるから安心せよと言い聞かせたところ、母の死骸の手がゆるんで子を離したと伝える。怨念が退散したのだと説かれる。また、飴を買いに来るとき、赤児を抱いて泣かせながら来たのを人が見たとも伝えている。これは『今昔物語』二七の産女、すなわち子を産んで死んだ女が霊となり、児を哭かせて「これ抱け」と言うという怪異との連関を明らかに示している。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
福井縣鄕土誌 民間傳承篇(中塩清之助(編)・福井縣鄕土誌・1939年(昭和14年))
『福井縣鄕土誌 民間傳承篇』は、教諭中塩清之助が昭和十四年に編んだ福井市立実科高等女学校の郷土誌第二輯である。丹生郡の名、哭女、越前萬歳、仏の舞、幸若舞、猫塚、八百比丘尼、弁慶譚などの論考と、瓜子姫・絵姿女房・山姥・猿婿入・舌切雀など県下の昔話を収め、古文献や他地方の類例と照らして論じる。昔話は類話をA・Bなどに分けて並べて解説を付し、学校長金岡正孝の序、校正者大村四朗の跋と「編輯者に代りて」を添える。