原生林へ消えた温もりのない気配
どんな伝承か
闇の山道で足を止めた著者の背後から、草をこする音が近づいてきた。人間ではないと感じ、恐怖のあまりへたり込む。武器になりそうな剛竿をつかんだとき、十メートルほどまで迫っていた気配は止まり、やがて枝道などないはずの右手の原生林へ吸い込まれるように遠ざかった。大きな動物かとも考えたが、生き物の温もりは感じられなかったという。後日その方向をたどると涸れ沢の先に洞穴があり、旧日本軍兵士の雑嚢と銃弾、正露丸の小瓶が残されていた。南方で戦死した祖父を思い、著者は涙を流したと記す。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
水辺の怪談 ベスト(つり人社)
『水辺の怪談 ベスト』は、釣り人たちが海や川で出会った怪異の体験談を集めた本である。お盆の夜釣りでの金縛り、伊豆大島の釣り宿の離れ、渓流の滝壺や湖のボート、バス釣りの遠征先の宿などを舞台に、釣具店主・会社員・釣りライター・バスプロら十七人が自身の体験を一人称でつづる。「海の章」五編と「川・湖の章」十二編の二部に分け、各編の冒頭に筆者の在住地と釣り歴を記した短い紹介を置き、四人は仮名で書く。