新枕の場でお岩に変わるお梅の顔
どんな伝承か
日本を代表する幽霊といえば、まず『四谷怪談』のお岩にとどめをさすであろうと著者は言う。四世鶴屋南北の芝居の筋のほうが有名になっているが、実説では、お岩は婿養子の伊右衛門にだまされて十六年間旗本屋敷に奉公に出たが、いつのまにか伊右衛門の上役である伊藤喜兵衛の娘、実名お琴が妻の座におさまっているのを知り、四谷外堀に身を投げたというだけの事件であるという。しかし芝居のほうは筋立てに迫真性があり、精神科医が見てもよくできている。とくに第二幕の終わり、新枕の場でお梅の顔と声色がいつしかお岩に変わり、ぞっとした伊右衛門が抜き討ちに首を打ち落とすと、それはお梅の首であったという場面が恐ろしいという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
怪談の科学――幻覚の心理を探る(中村希明・中村希明・精神医学)
『怪談の科学――幻覚の心理を探る』は、中村希明が精神医学の立場から著した怪談の解説書である。新聞記事の幽霊騒ぎや体験談、民話の化かされ話、「浅茅ヶ宿」やハムレット、『四谷怪談』などの古今東西の怪談を取り上げ、その多くを高速道路催眠現象、感覚遮断、飢えや寒冷、睡眠や薬物による幻覚として説明する。生理的幻覚から精神変調時の幻覚までを四章で分析し、終章「怪談の論理」で恐怖と幻覚の仕組みと日本の幽霊の特色を論じる。