水底を馬で駆ける有王淵の主
どんな伝承か
筑後浮羽郡に有王淵という淵がある。筑後志によれば、有王淵は生葉郡西原口村にあり、筑後川中の深さ十三尋の深潭で、水勢が逶迤として恐ろしい。土地の伝えでは、昔、生葉郡に有王という強猛な郷士がいて、戦に敗れて自刎し、この淵に身を投じた。その後、水底に馬に乗って馳ける彼の神霊の姿が見えるという。また筑後地鑑は、有王丸が硫黄島に俊寛僧都を訪ねた帰途、この水に身を投じて死んだので有王淵と名づけたと記す。
原典より
土人傳云古昔生葉郡に郷士あり有王と云強猛にして人を制す。—— 炉辺叢書 筑紫野民譚集(及川儀右衛門・1923年(大正12年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
炉辺叢書 筑紫野民譚集(及川儀右衛門・1923年(大正12年))
『炉辺叢書 筑紫野民譚集』は、及川儀右衛門が筑紫野で暮らした二年ほどの間に、土地の故老や下宿の老婆から聞いた話、教え子が書き送ってきた物語を文献とも照らしてまとめた民譚集である。筑後を中心に筑前・肥前・肥後・豊前・豊後の河童、怪火、長者の話、神事と歌舞、山と水の伝奇、狐狸や幽霊の怪異を六篇に分けて収め、多くの話に古記録を引いた〔註〕を添える。序の日付は大正十二年六月である。