階段で襟元に冷気を浴びる待合
どんな伝承か
語り手は化物などいないと言い張り、怪談を頭から否定する男だった。麹町のお厩谷は、九段の坂を上って三番町の通りを進み、招魂社脇の交番前で広い通りを左に折れ、井伊の屋敷を抜けた先の坂を下りたあたりで、角の二階家が問題の家である。ここで待合を営む女将の亭主で壮士あがりの山田が、化物はいないと言うなら来てみろと招いた。二階で飲むうち、十時頃に山田が下へ降りたきり戻らない。やがて瓦斯が細って真っ暗になったが、一時間待っても何も出ない。腹立ちまぎれに階段を降りかけたとたん、頭から水を浴びせられたような寒気が走り、背後から掴みかかられた気がして転げ落ちた。明かりを消せば必ずそうなり、女中も居つかないという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
実説妖怪新百話
『実説妖怪新百話』は、著者名の記されない明治の怪談集である。本郷駒込曙町の世外庵に住む天保初年生まれの老翁の勧めで、門下生三十六人が百物語の会を開き、武家の妻の執念、化物屋敷、狐狸の化かし、前妻のたたり、漁師の幽霊の帰宅などを、自分の見聞や親から聞いた話として順に語る。冒頭の「百物語の開筵」で会の趣向を述べ、続いて会津・三河・江州・若狭・盛岡・八戸などを舞台にした話を題ごとに並べる。