重兵衛さんの化物話と化物教育
どんな伝承か
寺田寅彦が少年の頃、郷里の家の長屋には重兵衛さんという老人が住んでいた。毎晩の晩酌の席に近所の子どもたちを向かいに座らせ、生のにんにくをかじりながら熱い杯をうまそうになめては、数えきれないほどの化物の話を語って聞かせた。言い伝えの化物も自分でこしらえた化物も自在に操る語り手で、子どもたちの小さな胸は話のままに高鳴った。夜更けに帰る道では、木陰にも川岸にも路地の奥にも、化物の幻が待ち伏せているように思えたという。寺田はこれを「化物教育」と呼び、かえって科学への興味を育ててくれたと振り返っている。
原典より
郷里の家の長屋に重兵衛さんという老人が居て、毎晩晩酌の肴に近所の子供等を膳の向いに坐らせて、生のにんにくをぼりぼりかじりながらうまそうに熱い杯を嘗めては数限りもない化物の話をして聞かせた。—— 怪異考 - 化物の進化(寺田寅彦) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
怪異考 - 化物の進化(寺田寅彦)
『怪異考 - 化物の進化』は、物理学者寺田寅彦が大正九年から昭和十二年にかけて雑誌・新聞に書いた随筆と談話を集めた本である。土佐の「孕のジャン」や濃尾のギバを地鳴りや空中放電で説く「怪異考」、昔の人が化物を自然現象の説明に用いたことを論じる「化物の進化」のほか、人魂、狸の腹鼓、厄年、夢判断などを科学者の目で語る。各篇の末尾に初出の年月と掲載誌名を記すが、「狸の腹鼓」だけは「単行本未収録」とのみ記す。