三上山を詠み天狗になった権作
どんな伝承か
近江国八幡に権作という男がいた。生まれつき器用で何をやってもよくできたが、いつも威張っていた。ある冬の日、三上山を眺めて「富士を見ぬ人に見せばや」と始まる和歌を詠み、我ながら見事な歌だとうぬぼれた。するとたちまち顔が真っ赤になり、鼻は一尺も伸び、脇腹に翼が生えた。五、六歳ほどの子供がその鼻にしがみつくと、権作はそのまま空へ舞い上がった。子供は松の枝に引っかかって死に、権作の行方は知れなくなったという。慢心が天狗に化した例とされる。
原典より
すると、にわかに面色朱となり、鼻は一尺になり、脇腹に翼が生えた。—— 怪談の世界(山田野理夫・1978年(昭和53年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
怪談の世界(山田野理夫・1978年(昭和53年))
『怪談の世界』は、山田野理夫が昭和五十三年に著した怪談の研究随筆である。遠野での佐々木喜善と柳田国男の出会いから説き起こし、家・山・木・石・道・水・火に現れる妖怪、憑き物、鬼と天狗、生霊・死霊・幽霊の話を、著者の聞き書きや各地の民俗資料、古典・芝居から集め、沖縄の話で結ぶ。章立ては江馬務と柳田国男の妖怪分類を参考にしたもので、民俗学の資料と文学作品の両面から怪談をとらえようとしている。