耳と口を三年貸した指物職人
どんな伝承か
上総国東金町に、指物職人の孫兵衛という人がいた。ある日、見知らぬ人が訪ねて来て、耳と口を三年ほど貸してほしいと頼んだ。承知すると、その日から耳が聞こえなくなり、口もきけなくなってしまった。三年ほどたって、あの異人がまた現れ、手のひらで背中を強く打つと、耳はよく聞こえ、言葉もはっきり出るようになった。異人は礼を述べ、これから安楽に暮らせるようにしてやろうと言い残して去った。孫兵衛はその後、成田の不動堂の前に移って蕎麦屋を開いたところ、たいそう繁盛したという。
原典より
上總國東金町に指物職の孫兵衛と云ふ人があつたが、或る日、見知らぬ人が来て、耳と口とを三年ばかり貸して呉れよと頼んだ。—— 幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談)
『幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵』は、岡田蒼溟による霊怪の事例集である。祟る石、出雲の瀧姫行者、神西湖の妖怪、但馬の抜け首、黄金の精、海の牛鬼、天狗などの怪異を、著者自身の見聞や知人の談話、古い文書からの移載によって集め、明治・大正期の出雲や松江周辺の事例を多く含む。項目によっては【解題】や註を添え、事例の後に「第二編」と附録の「天狗考」を続け、巻末の「解説の欄」で生霊・疫神・物体の飛来などを心霊研究の立場から論じる。