バード女史と川島の病人たち
どんな伝承か
一八七八年、英国の女性イザベラ・バードは四十七歳で日本を訪れ、三ヵ月にわたり東京から北海道にかけて旅した。二十日目ごろ、栃木と福島の県境の山王峠を越えて会津地方に入り、川島という五十七戸のみじめな村に宿をとる。宿の亭主の小さな男の子がひどい咳で苦しんでいたので薬を数粒飲ませたところ、苦しみが和らいだ。治療の話は翌朝早くから近所に広まり、五時ごろまでには村中の人たちが部屋の外に集まって障子の穴に眼をあてていた。障子を開けると、皮膚病やたむしの子を裸のまま抱えた親や、ほとんど眼の見えない母の手を引く娘、腫物を露出させた男たちが押し合っていたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幻視する近代空間 ―迷信・病気・座敷牢、あるいは歴史の記憶(川村邦光・1989年(平成元年))
『幻視する近代空間 ―迷信・病気・座敷牢、あるいは歴史の記憶』は、川村邦光が一九八九年に著した近代日本の民衆の心性をめぐる論考である。明治の「血税一揆」の流言、トラホームと〈迷信〉、狐憑きと精神医学、「脳病」「神経病」、座敷牢と精神病者監護法、芦原将軍や出口なおの神がかり、祖先教と靖国の霊魂の管理を、新聞記事や医学書、調査報告から読み解く。はじめにの後に三部と終章「近代日本と霊魂の行方」を置き、あとがきで結ぶ。