古町の避病院で聞こえた水音
どんな伝承か
古町の避病院では、昔チフスでたくさんの人が死んだ。そこへ手伝いに行っていたあき子という娘が、階下の流しのところで一人針仕事をしていると、どこからともなく人が来たように、隠れて水を使うバシャバシャという音がした。あんなに使っては汲み水もなくなるだろうにと思って廊下へ出て戸を開けてみたが、真っ暗で誰もおらず、水もそのままであった。ぞっとして先生を呼ぶと、先生も「私もヒタヒタと、何かが歩いて来るような音がすることがある」と言った。二階の女の先生はおまるを上げ、夜は便所へ下りて行かなかったという。浜野から行って死んだスミという娘の亡霊が、水を求めて出たのだろうといわれた。
原典より
私の叔母が先日(昭和五十七年・註/松谷)亡くなりまして、入院の初め頃は、死んだ者の顔が並んで崖の下に居て「来るな、来るな」と言っていて、自分は崖の上で必死につかまっていたと、夢の中の話をしていました。—— 現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・2003年(平成15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・2003年(平成15年))
『現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話』は、松谷みよ子が編んだ現代の民話の聞き書き集で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。一九七八年に発刊された『民話の手帖』を通じて全国から寄せられた回答を中心に、臨死体験、死の知らせ、寺へ来る死者、生まれかわりの話を収める。「あの世へ行った話」「死の話」「生まれかわり」の三章の冒頭に編者の論考を置き、細目ごとに所在地・話者・出典を添えた類話を並べる。