東三条殿の庭を歩く銅の提子の精
どんな伝承か
昔、東三条殿に式部卿の宮が住んでいたころ、邸の南の築山に、背丈三尺ほどの太った五位の装束の者が時おり歩いているのを宮の子が見て怪しんだ。陰陽師を呼んで占わせると、これは物の精で人に害をなすものではない、銅の器の精で、邸の東南の隅の土の中にあると言う。その場所を二、三尺掘っても何も出ないので、なおも掘らせると、五斗ほど入る銅の提子が掘り出された。それからはその五位の者が歩くことはなくなったという。
原典より
陰陽師、此れは物の精なり、但し人の爲に害を爲すべきものに非らず、銅の器の精なり、宮の辰巳の隅の土の中に有りと占ひ申たりければ—— 幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談)
『幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵』は、岡田蒼溟による霊怪の事例集である。祟る石、出雲の瀧姫行者、神西湖の妖怪、但馬の抜け首、黄金の精、海の牛鬼、天狗などの怪異を、著者自身の見聞や知人の談話、古い文書からの移載によって集め、明治・大正期の出雲や松江周辺の事例を多く含む。項目によっては【解題】や註を添え、事例の後に「第二編」と附録の「天狗考」を続け、巻末の「解説の欄」で生霊・疫神・物体の飛来などを心霊研究の立場から論じる。