公園の樹間を徘徊する木の精
どんな伝承か
老木には精があって夜間に現れるという説が昔からあるが、その姿については確かな定説がない。木の精は人や獣の幽霊に比べて影も力も淡いと伝えられる。明治四十年ごろ、東京に中野某という霊視のきく人がいて、たびたび夜分に芝公園内で樹木の精を見た。その姿は影のようなもので樹間を徘徊するのだという。ある夜、友人を連れて芝の山内をぶらついていて木の精を見たので指し示したが、友人には見えなかった。やがて友人が、今なにか五体に水を浴びたように感じたと言うので、それこそ木の精が身辺に来て触れたためだと説明したと伝えられる。
原典より
又明治四十年頃のこと、東京に中野某なる霊視の利く人があつて、毎度夜分に芝公園内にて樹木の精を見るのであつたが、その人の見た木の精は、影のやうなもので、樹間を徘徊するのであると云ふことであつた。—— 幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談)
『幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵』は、岡田蒼溟による霊怪の事例集である。祟る石、出雲の瀧姫行者、神西湖の妖怪、但馬の抜け首、黄金の精、海の牛鬼、天狗などの怪異を、著者自身の見聞や知人の談話、古い文書からの移載によって集め、明治・大正期の出雲や松江周辺の事例を多く含む。項目によっては【解題】や註を添え、事例の後に「第二編」と附録の「天狗考」を続け、巻末の「解説の欄」で生霊・疫神・物体の飛来などを心霊研究の立場から論じる。