ぼくでないぼくに先を越された
どんな伝承か
平野威馬雄のドッペルゲンゲル体験の第二回。上智大学に入ったばかりのころ、横浜の弁天通りには丸善書店の支店があり、注文した洋書を取り寄せてもらっていた。ある秋の日、本が届いたという通知を受けて弁天通りへ急ぎ、粗いチェックの背広にベレー帽という姿で店に入る。すると店員たちが顔を見合わせ、ただ今お帰りになったばかりでしょう、本はお渡ししましたと言う。通知状も出され、代金も受け取ったと机の上の紙幣と小銭を指さす。身なりも帽子も同じ人物が日本大通りの方へ急いで行き、入れ違いに自分が来たのだという。結局、待望の本は自分でない自分が持ち去ってしまった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
お化けについてのマジメな話(平野威馬雄・1974年(昭和49年))
『お化けについてのマジメな話』は、平野威馬雄が昭和四十九年に著した幽霊とお化けをめぐる随筆である。自ら主宰する「お化けを守る会」に寄せられた体験談や、大阪の毎日放送のラジオ番組で聴取者が電話で語った話を軸に、前世や霊媒・降霊実験など海外の心霊研究、井上円了の妖怪論、古い記録に見える犬神などの憑きものを取りあげる。体験談から死後の世界、お化けを呼ぶ方法、昔のお化けへと進む八章立てで、巻末にあとがきを置く。