Sさんの玄関に上がる原爆の大入道
どんな伝承か
数年前の夕方、宅島夫人が用があってSさんの宅へうかがおうと門まで来ると、真っ黒な半裸の不思議な大入道が、Sさんの玄関に片足をかけて上がろうとしていた。思わずアッと叫ぶと静かにこちらを向いたが、頭はクリクリに焼け、からだじゅうケロイドで、世界大戦のとき長崎の原爆でやられた人であった。人間の顔とも思えぬその姿に、夫人が心のなかでナムアミダブツを唱えると、その影はすーっとかき消すように見えなくなった。このあたり一帯は爆心地に近く、無数の人が犠牲になった土地で、Sさんの知人か肉親であろうと思われた。
原典より
数年前の夕方、用があって、Sさんのお宅へうかがおうと、かどまできますと、真っ黒な半裸の、不思議な大入道が、Sさんの玄関に片足かけてあがろうとしているのです。—— お化けは生きている —科学にとり残された霊の世界(平野威馬雄・1974年(昭和49年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
お化けは生きている —科学にとり残された霊の世界(平野威馬雄・1974年(昭和49年))
『お化けは生きている――科学にとり残された霊の世界』は、平野威馬雄が昭和四十九年に著した、怪異と心霊をめぐる読み物である。読者から寄せられたお化けの報告や沖縄の刑場・遺念火の話、長崎の宅島夫人の霊視、和漢の古書に見える妖草妖木・狐・天狗・人魂などの物の怪、フォックス家事件やクルックスの実験など欧米の心霊研究を扱う。著者が始めた「お化けを守る会」の由来、西丸震也・星新一との座談会、透視や念力を試すテストを含む全七章に、あとがきを添える。