元春公の贈位と重なった百年ぶりの南条踊
どんな伝承か
岩国の南条踊は、永禄年間に出雲で捕らえた南条家の者から吉川家の士が曲を授かったのが始まりで、元春公が出雲の鰐淵寺で初めて見て以来、戦勝の吉事にちなむ踊りとして吉川家の慶事ごとに披露されてきた。だが天保のころの経礼公の後は上覧が絶えていた。明治四十一年四月、皇太子の山口行啓に際して岩国から南条踊を献じることになり、町役場の費用で急ぎ人を募って稽古を整え、四月三日の夜、横山の吉川邸の後園で百人ほどが経健公の前で踊った。およそ百年ぶりのことだった。同じ月の一日には元春公に勤王の功で正二位が贈られており、図らずも祝いの踊りになったのは不思議だと記される。
原典より
岩国南条踊起源ハ、永禄年二雲州ニ於テ、南条家ノ捕ハレ人ヨリ吉川家ノ士某々、其曲ヲ授リ、夫ョリ吉川家ニ行ハレシハ、世人ノ知ル所ナリ。—— 岩邑怪談録(広瀬喜尚(増補:今田純一/続録・編:藤田葆/付録:静間密/昭和版編集:宮田伊津美)・1976年(昭和51年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
岩邑怪談録(広瀬喜尚(増補:今田純一/続録・編:藤田葆/付録:静間密/昭和版編集:宮田伊津美)・1976年(昭和51年))
『岩邑怪談録』は、岩国藩士広瀬喜尚の怪談録に後人の増補と続録を合わせ、岩国徴古館が昭和五十一年に発行した資料集である。岩国周辺で人々が出会った化物・大坊主・生首・怪火・狐狸・天狗倒し・幽霊などの話を収め、藤田葆が編んだ『岩国沿革志』のうちの二冊を底本に、なるべく原文のまま新字に改めて載せる。広瀬の本録に、今田純一の追加、藤田の続怪談録と実事談・変死、静間密の付録五話を続け、巻末に語注を付す。