三十年らいの乱気でさまよう老人
どんな伝承か
享保元年、守山領根木屋村の久作という六十歳ばかりの老人が、他村をさまよい歩いているのが見つかった。久作は三十年来の乱気者と記されており、三十歳のころに病んで以来、そのまま自宅に置かれていたものらしい。同居していた太兵衛が留守にしていたあいだの出来事だった。久作は指籠に入れられ、村送りで帰された。当時、手におえなくなった乱心の者は木造の座敷牢である指籠に収容されたが、こうして村役人の手をわずらわせた例だけが帳面に記された。在宅のまま放置されていた者は、ほかにも相当いたと推される。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
疫病と狐憑き-近世庶民の医療事情(昼田源四郎・1985年(昭和60年))
『疫病と狐憑き-近世庶民の医療事情』は、精神科医の昼田源四郎が昭和六十年に著した、江戸時代の村の医療を描く本である。奥州守山領(現・福島県郡山市の一部)の『御用留帳』を主な史料に、村人の暮らし、医師と医道修行、疫病と祈禱、湯治、乱心と狐憑き、受刑者の治療、行倒れの継ぎ送り、間引きと養育手当などを、書き下した原文を引いて跡づける。序と凡例、全八章、あとがき、注、索引からなり、発行所はみすず書房である。