他村をさまよい連れ戻された新兵衛
どんな伝承か
享保六年、守山領岩作村の新兵衛という五十一歳の男が、心を乱して他村をさまよい歩いた。村では新兵衛を連れ帰り、番人を付けて見張った。乱心の者が他領へ出て事を起こせばその責めを問われるため、藩も村も逃亡には神経をとがらせ、逃げたときは親類・五人組で、それでも見つからなければ村中総出で捜し出せと厳命するのが常だった。捜索の費用はすべて村の負担である。新兵衛の場合は他村までで済み、連れ戻して番を付けるという穏やかな処置にとどまった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
疫病と狐憑き-近世庶民の医療事情(昼田源四郎・昭和中期(推定))
本書は江戸時代の陸奥奥州守山藩領における『御用留帳』を史料とした、近世農村の医療事情と心霊現象の研究である。狐憑きや物付きなどの精神疾患が、祈禱や指籠入れ(座敷牢)によって治療された実例を14件詳述する。天明・天保の飢饉や流行疫病(疱瘡、麻疹、コレラ等)への対応と並行して、乱心者の社会的処遇、責任能力の鑑別問題、欠落(逃亡)との区別が論じられている。