夜道で狐に隠されたと疑われた差八
どんな伝承か
安永五年、守山領根木屋村の差八が、夜、知人の家へ行くといって家を出たまま帰らなくなった。親しい者の家をあたっても泊まってはいない。村では狐などに隠されたのではないかと疑い、山々にまで分け入って捜した。『御用留帳』には、こうした失踪のさい「狐等に隠され候や」「狐等に引かれ候や」と書きとめられた例が並ぶ。理由の分からぬ失踪を狐の仕業と考えることは、村人たちにとってごく現実味のある説明であった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
疫病と狐憑き-近世庶民の医療事情(昼田源四郎・昭和中期(推定))
本書は江戸時代の陸奥奥州守山藩領における『御用留帳』を史料とした、近世農村の医療事情と心霊現象の研究である。狐憑きや物付きなどの精神疾患が、祈禱や指籠入れ(座敷牢)によって治療された実例を14件詳述する。天明・天保の飢饉や流行疫病(疱瘡、麻疹、コレラ等)への対応と並行して、乱心者の社会的処遇、責任能力の鑑別問題、欠落(逃亡)との区別が論じられている。