猪苗代湖の主を見た舟乗りの難船
どんな伝承か
明治四十二年の初冬の真夜中、横沢村川崎の滝田が小用に起きると、猪苗代湖の波音の間に人の叫ぶような声が混じっていた。家人を起こしガンドウをともして湖の方へ行くと、土手にずぶ濡れの男が倒れ、船が難破して仲間が死にそうだと訴える。案内された浜には中浜の舟乗り四人が息も絶え絶えに打ち上げられていた。介抱されて生き返った彼らは、二年前に鬼沼沖から湖心にかかったとき、岩と見えたものが大赤亀すなわち猪苗代湖の主であったこと、主を見た者は三年以内に難船するという言い伝えを恐れていたことを打ち明けた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 偽汽車(松谷みよ子・現代民話考(ちくま文庫)・2003年(平成15年))
『現代民話考――偽汽車』は、松谷みよ子が編んだ『現代民話考』全十二巻の第三巻で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。鉄道開通のころ狸や狐が汽車に化けたという偽汽車の話、船幽霊や幽霊船など海の怪談、タクシーの幽霊など自動車や列車の怪談と笑い話を、全国の回答者の聞き書きや新聞・雑誌・書籍から集める。三章それぞれの冒頭に考を置き、話ごとに本文と分布を並べて地名・話者・出典を添える。