広沢寺温泉の素掘りトンネルに立つ煙の人
どんな伝承か
一九八八年ごろ、利根川さん夫婦は友人と三人で釣りに行こうと丹沢へ車を走らせた。真夜中過ぎ、広沢寺温泉の素掘りのトンネルに入ろうとした時、脇から煙が吹き上がって人の形になった。利根川さんは止めてくれと叫んだが、運転の友人はかえって速度を上げて通り抜けた。釣りの帰りにも同じ所から煙が出て、頭や肩のある人の姿へ伸び上がっていった。妻の優子さんも友人も見ていたが、夫が確かめに降りたがるのを恐れて見ないふりをしたという。沸かし湯の温泉で湯気が立つはずもなく、利根川さんは伸び上がりという妖怪ではないかと言う。
原典より
白石に取材旅行に行って乗ったタクシーの運転手さんから聞いた話。—— 現代民話考 ― 偽汽車(松谷みよ子・現代民話考(ちくま文庫)・2003年(平成15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 偽汽車(松谷みよ子・現代民話考(ちくま文庫)・2003年(平成15年))
『現代民話考――偽汽車』は、松谷みよ子が編んだ『現代民話考』全十二巻の第三巻で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。鉄道開通のころ狸や狐が汽車に化けたという偽汽車の話、船幽霊や幽霊船など海の怪談、タクシーの幽霊など自動車や列車の怪談と笑い話を、全国の回答者の聞き書きや新聞・雑誌・書籍から集める。三章それぞれの冒頭に考を置き、話ごとに本文と分布を並べて地名・話者・出典を添える。