運転席に座るなと告げた中古車の声
どんな伝承か
昭和三三年、青森市での話。若い女が運転していた車が崖から転落し、女は死んだ。その車はやがて修理され、中古車として売りに出された。値がひどく安かったので買おうという男が現れ、試しに運転席へ腰を下ろしたところ、後ろから若い女の声で、そこは自分の席だから座らないでほしい、ハンドルにも手を触れないでほしいと言われた。ぎょっとして振り返っても車内には誰もいない。死んだ持ち主の幽霊にちがいないと、男は背中に汗をびっしょりかいて外へ逃げ出した。その車を買う者は、とうとう現れなかったという。青森市のハイヤー運転手が息子に語った話である。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 偽汽車(松谷みよ子・現代民話考(ちくま文庫)・2003年(平成15年))
『現代民話考――偽汽車』は、松谷みよ子が編んだ『現代民話考』全十二巻の第三巻で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。鉄道開通のころ狸や狐が汽車に化けたという偽汽車の話、船幽霊や幽霊船など海の怪談、タクシーの幽霊など自動車や列車の怪談と笑い話を、全国の回答者の聞き書きや新聞・雑誌・書籍から集める。三章それぞれの冒頭に考を置き、話ごとに本文と分布を並べて地名・話者・出典を添える。