死んだ哲の自転車が夜ごと鳴らすベル
どんな伝承か
語り手が小学校の高等二年ぐらいの頃、福谷(真庭郡勝山町)に仲間という屋号の家があり、哲雄という男がいた。朝鮮のタイコウというところへ兵隊に行き、銃剣で突き合いをして肺を痛め、胸膜炎で二年の満期を迎えて戻ったが、福谷で悪化して死んだ。久世から嫁いだ妻のヒデも肺を移されて間もなく亡くなった。哲雄は寝ていた頃、自転車を買ってもらった語り手を羨み、乗れないのがつらいと男泣きした。それで親父が哲雄にも自転車を買ってやり、納屋に入れておいた。ところが哲雄が死んで何日か後から、納屋の自転車が毎夜鳴った。その家の者にしか聞こえなかったが、部落でも評判になり、大勢が自転車のリンの音を聞いたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 偽汽車(松谷みよ子・現代民話考(ちくま文庫)・2003年(平成15年))
『現代民話考――偽汽車』は、松谷みよ子が編んだ『現代民話考』全十二巻の第三巻で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。鉄道開通のころ狸や狐が汽車に化けたという偽汽車の話、船幽霊や幽霊船など海の怪談、タクシーの幽霊など自動車や列車の怪談と笑い話を、全国の回答者の聞き書きや新聞・雑誌・書籍から集める。三章それぞれの冒頭に考を置き、話ごとに本文と分布を並べて地名・話者・出典を添える。