硫黄島から別れに来た軍服の夫
どんな伝承か
死の知らせは本当にあるものだという。前の旦那が硫黄島で玉砕したときにも来た。昔は川で顔を洗ったので、その日も東側の戸をあげて外に出ようとすると、暗がりに軍服を着たあの人が立っていた。帰って来たのかと思って道に出ると、「別れさ来た」と言ってスーッと消えた。驚いて追いかけたが誰もいなかった。戦死は三月十五日から十七日の間だろうと思っていたが、後に届いた公報の日付は十七日で、軍服姿で別れに来たのは十七日の朝方であった。二日前の十五日の夜にも、うつらうつらしていると軍服は着ていないあの人が体の上に上がってきて、背筋が冷たくなったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・2003年(平成15年))
『現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話』は、松谷みよ子が編んだ現代の民話の聞き書き集で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。一九七八年に発刊された『民話の手帖』を通じて全国から寄せられた回答を中心に、臨死体験、死の知らせ、寺へ来る死者、生まれかわりの話を収める。「あの世へ行った話」「死の話」「生まれかわり」の三章の冒頭に編者の論考を置き、細目ごとに所在地・話者・出典を添えた類話を並べる。