死者が迎えに来る餓えの島
どんな伝承か
ガダルカナル島では、死ぬときに天皇陛下万歳などと言う者はいなかったという。食べる物がなく自然に力が落ちて立てなくなり、まだ死なないうちから顔にたかった蠅の蛆がぽろぽろとこぼれ落ちる。あちらにもこちらにも、そうして寝ているのだという。ところが今わの際になると、腐りかけたような体がどんな力でか、むっくりと立ち上がり、「中隊長どのー、ただ今内地から姉が迎えに参りましたー、帰らしてください」と叫ぶ。中隊長が「うん、帰れ、帰れ」と言うと、ぱたりと倒れてそれで終わりだった。迎えに来る姉は生きている人ではなく、亡くなった母や姉の霊が必ず迎えに来るのだという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 軍隊(松谷みよ子・民話・口承文芸)
『現代民話考 ― 軍隊』は、松谷みよ子が編んだ、軍隊と戦争をめぐる現代の民話の集成である。日本民話の会の雑誌『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞き書きによって寄せられた話をもとに、十五年戦争を中心に徴兵検査から新兵のしごき、戦地、虐殺や飢え、敗戦、収容所、戦犯、軍隊生活の怪談までを収める。巻頭に序文「明日の民話のために」と論考「軍隊考」を置き、十三の部に分けた各話の末に話者と回答者の名と在住地を記す。