南風原陸軍病院で配られた毒の牛乳
どんな伝承か
石第三五九二部隊で伝令を務めた兵の語りである。昭和二十年八月、沖縄の石部隊はついに全滅し、本部の将校たちは生き残った者に内地へ帰れと言い残して自決した。遺体は壕の奥へ運んで積み重ね、毛布と土をかぶせただけだった。負傷兵たちも幾重もの輪になって集まり、中央の兵が手榴弾を爆発させて集団自決した。夏の沖縄では傷がすぐに膿み、薬もなかった。戦えない者は殺せという命令がひそかに出ていたらしく、南風原陸軍病院にいた戦友によれば、看護婦が配った牛乳を飲んだ兵が次々ともだえ死に、奥に寝ていた戦友は飲むふりをして吐き出し助かったという。
原典より
○青森県、弘前東部第五十七部隊。—— 現代民話考 ― 軍隊(松谷みよ子・民話・口承文芸) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 軍隊(松谷みよ子・民話・口承文芸)
『現代民話考 ― 軍隊』は、松谷みよ子が編んだ、軍隊と戦争をめぐる現代の民話の集成である。日本民話の会の雑誌『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞き書きによって寄せられた話をもとに、十五年戦争を中心に徴兵検査から新兵のしごき、戦地、虐殺や飢え、敗戦、収容所、戦犯、軍隊生活の怪談までを収める。巻頭に序文「明日の民話のために」と論考「軍隊考」を置き、十三の部に分けた各話の末に話者と回答者の名と在住地を記す。