塀の角に立った飛行服の弟
どんな伝承か
昭和十九年七月九日午後七時ごろ、前橋市の家で生花の教室を営んでいた母と語り手が雑談していると、母が急に「邦郎(弟)が塀の所に立っている、飛行服を着ている、戦地から還って来たのかもしれない」と言い、玄関まで駆け出したが誰もいなかった。母は弟の顔も胸の白いマフラーもはっきり見えたと言い張った。翌朝、語り手に再召集がかかり、その年十一月、弟が同じ七月九日午後七時ごろ中支洞庭湖上空の空中戦で戦死したという公報が届いた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・2003年(平成15年))
『現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話』は、松谷みよ子が編んだ現代の民話の聞き書き集で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。一九七八年に発刊された『民話の手帖』を通じて全国から寄せられた回答を中心に、臨死体験、死の知らせ、寺へ来る死者、生まれかわりの話を収める。「あの世へ行った話」「死の話」「生まれかわり」の三章の冒頭に編者の論考を置き、細目ごとに所在地・話者・出典を添えた類話を並べる。