水を求めて帰ってくる戦地の息子
どんな伝承か
三か月ほど前のことじゃ、と賀島飛左は語る。納戸で横になっていると「お母さん」と言って息子の久男が入ってきた。見ると、やせこけてぼろぼろの服を着ている。「お母さん、のどがかわいたので水を飲ませてほしい」と言うので、台所でコップに水を汲んでやったが、渡そうとするともう久男の姿はなかった。久男は「腹がへったので茶漬けが食べたい」「背中をさすってくれ」などと言って、時々帰ってくることがある。久男は戦死などしていない、まだどこかで生きているように思える――と飛左は言う。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・2003年(平成15年))
『現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話』は、松谷みよ子が編んだ現代の民話の聞き書き集で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。一九七八年に発刊された『民話の手帖』を通じて全国から寄せられた回答を中心に、臨死体験、死の知らせ、寺へ来る死者、生まれかわりの話を収める。「あの世へ行った話」「死の話」「生まれかわり」の三章の冒頭に編者の論考を置き、細目ごとに所在地・話者・出典を添えた類話を並べる。