寒そうだから温めてやったという鉄拳
どんな伝承か
親に内緒で海軍乙種飛行予科練習生の試験を受けた十五歳の岡村は、昭和二十年二月十三日に大竹海兵団へ入隊した。二日後の朝、夢中で掃除当番をしていると、若い下士官がやって来て、足を開け、歯を食いしばれ、顎を引けと命じた。わけも分からず構えると、左右の拳で頬を殴られ、よろけて倒れ起き上がってもさらに数回殴られた。下士官はにやりと笑い、寒そうな顔をしていたから温めてやったのだ、しっかり掃除しろと言って去った。その夜、岡村は枕が冷たくなるほど泣いたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 軍隊(松谷みよ子・民話・口承文芸)
『現代民話考 ― 軍隊』は、松谷みよ子が編んだ、軍隊と戦争をめぐる現代の民話の集成である。日本民話の会の雑誌『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞き書きによって寄せられた話をもとに、十五年戦争を中心に徴兵検査から新兵のしごき、戦地、虐殺や飢え、敗戦、収容所、戦犯、軍隊生活の怪談までを収める。巻頭に序文「明日の民話のために」と論考「軍隊考」を置き、十三の部に分けた各話の末に話者と回答者の名と在住地を記す。