姪と偽った遊女を連れ去られた谷中の和尚
どんな伝承か
ずいぶん昔のこと、谷中あたりの寺の住職が遊里に通い、馴染みの遊女を身請けして姪だと偽り、寺に置くのははばかられると門前の豆腐屋の老夫婦に預けていた。ある日三十ほどの男が来て、和尚の甥でこの娘の兄だと名乗り、縁づく先が決まったので連れて帰りたいと言った。豆腐屋は和尚の留守を理由にためらったが、女も兄に違いないと言ってさっさと支度をし、男は丁寧に礼を述べて女を連れて行ってしまった。帰った和尚は事の次第を聞いて驚き、怒ったり嘆いたりしたがどうしようもなく、口では世話になった、めでたいことだと言ったという。
原典より
余程ふる事にや、谷中辺に一寺の住職ありしが、遊所へ入込、妓女に馴れて右女を請出し、姪の由を偽り、—— 耳嚢(みみぶくろ)(根岸鎮衛・江戸随筆・怪異・1809年(文化6年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
耳嚢(みみぶくろ)(根岸鎮衛・江戸随筆・怪異・1809年(文化6年))
『耳嚢(みみぶくろ)』は、根岸鎮衛(守信)が勤めの合間に古老や訪ねて来た人から聞いた話を書き留め、佐渡在勤のころからまとめ直して文化六年仲秋に結びを付した随筆である。武家・町人の逸話や奇談に加え、狐・狸・幽霊・妖獣などの怪異、羽蟻や虫歯・ものもらいを治めるまじない、薬の秘法を、一項ずつ題を掲げて記す。この本文は著者の自叙と巻之一から巻之十まで(巻之四を欠く)の抜粋で、巻末に著者の結びと『耳嚢副言』の一部を置く。