臨終の病人に冷水を与えた友の機転
どんな伝承か
本所石原の裕福な商人がある年大病にかかり、医者たちが手を尽くしても治らず、いよいよ臨終というありさまで、家族や親類が集まって最期の看病をしていた。病人がふと目を開け、冷たい水が飲みたいと言ったが、医者は冷水を与えればたちまち息絶えると止めたので、家の者は与えなかった。そこへ病人の親友で機転のきく男が来て、水を与えずに苦しませて死なせるより、飲ませて望みを叶えてやるほうがよいと言い、冷たい水を一鉢口に運んだ。病人は喜んで飲み干し、そのまま横になって眠った。皆が驚いて見ると静かな寝息で、翌朝目覚めると熱も引き、病はすっかり去って全快したという。
原典より
病人生前の親友にて頓智ある男来りて右の様子を聞き、—— 耳嚢(みみぶくろ)(根岸鎮衛・江戸随筆・怪異・1809年(文化6年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
耳嚢(みみぶくろ)(根岸鎮衛・江戸随筆・怪異・1809年(文化6年))
『耳嚢(みみぶくろ)』は、根岸鎮衛(守信)が勤めの合間に古老や訪ねて来た人から聞いた話を書き留め、佐渡在勤のころからまとめ直して文化六年仲秋に結びを付した随筆である。武家・町人の逸話や奇談に加え、狐・狸・幽霊・妖獣などの怪異、羽蟻や虫歯・ものもらいを治めるまじない、薬の秘法を、一項ずつ題を掲げて記す。この本文は著者の自叙と巻之一から巻之十まで(巻之四を欠く)の抜粋で、巻末に著者の結びと『耳嚢副言』の一部を置く。