目黒不動参りの男を追った黒雲の怪気
どんな伝承か
下谷の立花家の屋敷近くの町に住む男は、目黒不動を信じてたびたび参詣していた。ある時、七つ時に出るつもりが早く八つ時に起きてしまい、日本橋まで来てようやく七つになったので、そのまま道を進んだ。芝口には、いつも休む信楽という水茶屋があった。日本橋寄りのあたりから、後ろでざわざわと音を立てて付いてくるものがあり、振り返ると黒雲のような巨大な怪しい気が漂いながら追ってくる。男は驚いて足を速め、信楽に駆け込んで主人に介抱されたが、追ってきた気は茶屋の門口で消えた。不動の霊威で命拾いしたと男は語ったという。
原典より
然るに日本橋寄に候哉、跡よりざはざはと音してつき来るものあり。—— 耳嚢(みみぶくろ)(根岸鎮衛・江戸随筆・怪異・1809年(文化6年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
耳嚢(みみぶくろ)(根岸鎮衛・江戸随筆・怪異・1809年(文化6年))
『耳嚢(みみぶくろ)』は、根岸鎮衛(守信)が勤めの合間に古老や訪ねて来た人から聞いた話を書き留め、佐渡在勤のころからまとめ直して文化六年仲秋に結びを付した随筆である。武家・町人の逸話や奇談に加え、狐・狸・幽霊・妖獣などの怪異、羽蟻や虫歯・ものもらいを治めるまじない、薬の秘法を、一項ずつ題を掲げて記す。この本文は著者の自叙と巻之一から巻之十まで(巻之四を欠く)の抜粋で、巻末に著者の結びと『耳嚢副言』の一部を置く。