夢と同じ古寺に眠っていた父
どんな伝承か
相州三浦三崎の古寺にまつわる話。実の父を知らずに育ったお秋は、夢の中で身なりのきたならしい老人に、私はお前の父だと袖を捕えられた。老人は迷惑はかけないと言い、住まいへ案内した。崩れた門の石段を五、六段登ると、煤けた壁に八ツ手が茂り、虫食いだらけの式台があり、奥は八畳の座敷、畳廊下に桔梗模様の座布団が敷いてあった。庭には大きな柘榴と八ツ手が茂り、中央の池に金魚が泳ぎ、五十ばかりの婆さんが茶を運んだ。後に夫と三浦三崎へ行くと、夢と寸分違わぬ古寺があり、父は零落して乞食のようになりその寺へ葬られていたことが分かったという。
原典より
古い門の倒れかゝつた石段を五ツ六ツ登つた所といふの見當に漸く想し當てたのは古いお寺であつた。—— 幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年))
『幽霊は語る』は、梶天真が編んだ幽霊譚と幽霊論の集成で、昭和十三年に文明社から出た。新聞・雑誌の記事や井上円了・柳田國男・高峰博らの所説、古典の文を出典を添えて引き、葬送の習俗や布哇の霊魂観から説く幽霊思想、幻覚や網膜による説明、乃木大将が見た我が子の幽霊などの実話を集める。三篇に分かれ、第二篇は男女の幽霊・怨霊・生霊・小児の見た幽霊・前知らせなど八項、第三篇は幽霊写真・化物屋敷・霊界通信を扱い、巻末を夕張と筑前の幽霊問答で結ぶ。