長命寺への改葬を頼む母の幽霊
どんな伝承か
江戸の東の端、向島に長命寺という寺がある。高みに建つので眺めがよく、安房上総下総の山々が水の上に浮かんで見え、隅田川も近い。ある家の母親はこの景色を愛し、死んだらこの寺に葬ってほしいと繰り返し言い置いていた。だが代々の墓を捨てるわけにもいかず、子らは従来の寺に葬る。するとその夜、長命寺の和尚のもとへ当の母が現れ、望みどおりにならなかったから子らに話してほしいと頼んだ。証拠がなければ信じてもらえまいと和尚が言うと、母は上着を脱いで渡し、そのまま消えた。夜明けを待って子らに告げたところ上着に覚えがあり、母は長命寺へ改葬されたという。
原典より
* ハムレットの見た怨靈* 喙木鳥となった守屋* 菅公の怨靈* 雷火數年公卿悉く仆る* 知盛の怨靈* 新院の怨靈* 世を呪ふ大魔王—— 幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年))
『幽霊は語る』は、梶天真が昭和十三年に編んだ幽霊譚と幽霊論の集成である。葬送の習俗や海外の霊魂観から説く幽霊思想、幻覚や網膜の作用による幽霊の説明、乃木大将や許斐大尉の見た幽霊などの実話、古典や伝説に現れる男女の幽霊・怨霊・生霊、幽霊写真、化物屋敷、霊界通信を集める。三篇に分かれ、第二篇は幽霊を男女・怨霊・生霊・小児の見た幽霊・食物に縁ある幽霊・前知らせなど八項に分類し、巻末を夕張と筑前の幽霊問答で結ぶ。