鐘を砕いた蛇身の清姫
どんな伝承か
紀伊の日高川のほとり、真砂の庄司の娘清姫は美しく育った。熊野詣での山伏安珍は毎度庄司の家に泊まり、庄司は戯れに、大人になったら安珍の妻になるのだと言った。十歳の清姫はこれを胸に秘め、十六になったとき、安珍に一緒に連れて行ってと迫った。困った安珍はその夜ひそかに抜け出し、川向こうの道成寺へ逃げた。追った清姫は増水で渡し守に断られ、恨みのあまり蛇身となって川を渡り、寺へ上った。安珍は降ろした大鐘の中に隠れたが見つかり、蛇は鐘に七重に巻きついて打ち砕き、安珍を跡形もなく消し去ると、大蛇となって日高川を下っていった。
原典より
大鐘の龍頭を咥へ、其身を七巻にだまきて尾で鐘をトンと打てば、大鐘は木つ端に砕け—— 幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年))
『幽霊は語る』は、梶天真が編んだ幽霊譚と幽霊論の集成で、昭和十三年に文明社から出た。新聞・雑誌の記事や井上円了・柳田國男・高峰博らの所説、古典の文を出典を添えて引き、葬送の習俗や布哇の霊魂観から説く幽霊思想、幻覚や網膜による説明、乃木大将が見た我が子の幽霊などの実話を集める。三篇に分かれ、第二篇は男女の幽霊・怨霊・生霊・小児の見た幽霊・前知らせなど八項、第三篇は幽霊写真・化物屋敷・霊界通信を扱い、巻末を夕張と筑前の幽霊問答で結ぶ。