道を尋ねた女房の生霊
どんな伝承か
京の朱雀から五条へ下ろうとする男が、垣根のそばに立つ青い着物の女房に呼び止められた。この辺りの知り合いの家を探しているが道に迷ったという。気の毒に思って七、八町ほど送ってやったが、どうにも怪しい気がしてならない。家の前に着くと女は何度も礼を言い、自分の家は五条の外れにある、ぜひ立ち寄ってほしいと告げて、閉じた門を開けずに消えるように入っていった。やがて中から泣き騒ぐ声が聞こえ、夜明けに出てきた人に聞くと、別居している女房の生霊が入ってきて、病の夫は苦しんで死んだという。三月後に男が女の家を訪ねると実在し、女は簾越しに礼を述べてもてなした。
原典より
近辺の家に別居してゐる女房の生霊が入つてきて、病気の夫に其の姿が見えると共に苦しみぜし、遂に臨終になりたりと知れ—— 幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年))
『幽霊は語る』は、梶天真が編んだ幽霊譚と幽霊論の集成で、昭和十三年に文明社から出た。新聞・雑誌の記事や井上円了・柳田國男・高峰博らの所説、古典の文を出典を添えて引き、葬送の習俗や布哇の霊魂観から説く幽霊思想、幻覚や網膜による説明、乃木大将が見た我が子の幽霊などの実話を集める。三篇に分かれ、第二篇は男女の幽霊・怨霊・生霊・小児の見た幽霊・前知らせなど八項、第三篇は幽霊写真・化物屋敷・霊界通信を扱い、巻末を夕張と筑前の幽霊問答で結ぶ。