八九里先で死んだ母の立姿
どんな伝承か
語り手の村から一里ばかり離れた内郷村に、今田元という人がいる。四十一、二歳で県の農業技師を勤めた学者肌の人である。その今田がかつて最上郡新庄町に住んでいた頃のことだという。役所の都合で遅く退出し、食事を済ませてから何心なく机に凭れて書見をしていると、座敷の隅の戸棚の前に、茶の立縞の着物を着た母親の姿がはっきりと立っているのが見えた。吃驚して二、三度声を掛けると、しばらくして消えてしまった。内郷村から新庄までは八、九里離れている。何か変わったことがあったに違いないと心を痛めていると、ちょうどその時、母親の死亡を知らせる電報が届いたという。
原典より
私の村から一里ばかり離れたる内郷村といふ所に、今田元といふ人が居ります。—— 心霊現象と死後の生活(梶天真・心霊研究・死後の生活) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
心霊現象と死後の生活(梶天真・心霊研究・死後の生活)
『心霊現象と死後の生活』は、梶天真が諸家の所説を集めて編んだ心霊研究の書である。欧米の心霊研究の動向、死後の生存と輪廻転生、幽霊・神憑り・交霊・精神感応などの現象を、松村介石、森田正馬、小熊虎之助らの説や、雑誌『婦人世界』『変態心理』に載った論を引いて紹介する。四篇に分けて各篇を小見出しで細かく区切り、霊媒ユーサピアの実験、霊能の贋物の種明かし、占い棒による水脈探しなどの事例も載せる。