神田の実験会で炭火を咥えた男
どんな伝承か
数年前、神田あたりで開かれた心霊実験会での話として筆者が耳にしたものである。ある者が真っ赤に熾った火鉢の炭を火箸でつまみ出し、それを口に咥えてはあはあと息を吹いてみせたところ、講堂は大喝采になったという。筆者はこれを苦々しく見る。こんなつまらぬ芸に手を叩く人が多いから、いかさま師が絶えないのだと言う。裸の火を頬で咥えたのなら褒めてもよいが、歯で咥えただけで何を感心することがあるのか。歯の表面の琺瑯質は鉱物に近く熱を通さない。唇や舌を火傷する者はいても、歯を火傷した者はいないではないか、というのが筆者の説明である。
原典より
数年以前の事神田辺の心霊実験會で、一人がかんかんに熾つた火鉢の火の中から、真紅に焼けた炭火を一つ火箸で摘み出して之を口に咥へてハアハアと息を吹いて見せたので、講堂大喝采で有たことを聞きました。—— 心霊現象と死後の生活(梶天真・心霊研究・死後の生活) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
心霊現象と死後の生活(梶天真・心霊研究・死後の生活)
『心霊現象と死後の生活』は、梶天真が諸家の所説を集めて編んだ心霊研究の書である。欧米の心霊研究の動向、死後の生存と輪廻転生、幽霊・神憑り・交霊・精神感応などの現象を、松村介石、森田正馬、小熊虎之助らの説や、雑誌『婦人世界』『変態心理』に載った論を引いて紹介する。四篇に分けて各篇を小見出しで細かく区切り、霊媒ユーサピアの実験、霊能の贋物の種明かし、占い棒による水脈探しなどの事例も載せる。