犬神使いと噂された長丞と寅蔵の乱心
どんな伝承か
弘化元年正月、土佐長岡郡豊永郷岩原村(現大豊町岩原)で不思議な事件が起きた。人里離れた巌窟の下に住み、犬神を祀ると噂され村の組合から除名されていた変人・長丞が、組合加入を頼んだが拒まれた。すると間もなく百姓寅蔵が何かに憑かれたように出鱈目を口走りだし、それが伝染して五、六人の男女に広がり、乱心者は十七人に達した。村人は皆『犬神の祟りだ』と信じた。乱心者は夜になると正気に返るが、昼には集まって歌い舞い、犬神が押しかけると叫んだという。
原典より
すると間もなく、同村の百姓寅蔵なる者が、何物かに憑かれた様子で、いろ/\の出鱈目を口走るやうになり、しかもそれが傳染性を帯び、忽ちの間五六人の男女が、同じやうに變な事をのべるやうになりました。—— 二つの怪奇な心霊現象(浅野和三郎・1940年(昭和15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
二つの怪奇な心霊現象(浅野和三郎・1940年(昭和15年))
『二つの怪奇な心霊現象』は、浅野和三郎が著し、心霊科学研究会が昭和十五年に発行した記録で、昭和二十七年に再版された。前篇は弘化元年、土佐国長岡郡豊永郷岩原村で村人六十四人が狂乱し、祈禱が効かず藩の役人が空鉄砲と犬で取り押さえた事件を、野島通玄の記録『甲辰奇怪記』の現代語訳で紹介する。後篇は山梨県北巨摩郡穂坂村の旧家の娘かね代に曾祖父横森市兵衛の霊が懸かり、盗まれた不動明王の掛軸が戻った因縁を、著者の調査と甲州訪問記を添えて述べる。