前生を語った中野村の勝五郎
どんな伝承か
文政六年四月二十五日、平田篤胤の家では、前の生を覚えているという八歳の勝五郎から詳しい話を引き出そうとしていた。人前を嫌がる子だったので、篤胤は立入事負とふたりで庭へ連れ出し、木の実を与えて機嫌をとり、少しずつ語り出したのを筆記させた。門人たちは物陰で耳をそばだてるほかなかった。勝五郎は武州多摩郡柚木領中野村の農民源蔵の子で、前年の晩秋にふと、自分はよその村で六つで死んだ藤蔵の生まれ変わりだと口にした。家の者が調べるとそう見るほかない話になり、村を知行する多門伝八郎まで親子を江戸へ呼んで取り調べ、上司へ届書を出したほどだった。発端は姉ふさと兄乙次郎と田のほとりで遊んだ日のことだったという。
原典より
C 霧島山の幽境D 天狗つきE 仙人河野久の体験F ある写本からG 秋山参謀の霊夢H 沖の叫び声—— 霊の世界 ― 小品集(田中千代松・心霊研究文庫III・1978年(昭和53年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
霊の世界 ― 小品集(田中千代松・心霊研究文庫III・1978年(昭和53年))
『霊の世界――小品集』は、田中千代松が心霊研究について新聞・雑誌に書いた随筆や小論を集め、一九七八年に心霊研究文庫の第三冊としてまとめた本である。心霊研究協会(SPR)の成り立ちや催眠術・超心理学の来歴、クルックスやフラマリオンらの研究を論じる文章のほか、土井晩翠や福来博士の心霊体験、平田篤胤が記した仙童寅吉、秋山真之の霊夢などの話を収める。「エッセイ種々」「群像」「ものがたり回顧」の三部に分け、各篇に初出誌を記す。