藁人形の釘を打ったこたつ櫓
どんな伝承か
北玉造村の弥勒院の院主が日暮れに本堂へ灯明を上げに行くと、白装束の者が裏手へ回るのが見えた。後を追うと、村の家の若妻が杉の木に藁人形を当てて釘を打とうとしていた。夫とどうしても添えず、実家の両親に打ち明けても、婿は丈夫でまじめ、家柄も舅姑も申し分ないと取り合ってもらえず、出てきても家には入れないとまで言われたので、夫が死ねば実家へ帰れると呪い殺そうとしたのだという。院主は、妻が夫を呪ったことが領主の耳に入ればあなたの身も危ういと諭し、自分が代わりに祈り殺すとなだめて釘と槌を預かり、その夜からひそかに縁結びの祈祷を続けた。七日目、女は婚家にとどまりたくなったと告げに来た。冬に院主が壊れたこたつ櫓へその釘を打つと、翌日夫が関節の痛みに苦しんでいると女が訴えた。院主は祈祷すればじきに良くなると言って女を帰し、急いで釘を抜くと、翌日女がすっかり治ったと礼に来たと伝わる。
原典より
その翌日の夕方にあの女がやって来て、夫が昨日から身体の関節が痛んで苦しんでおります、どうぞご祈祷を、と懇願した。—— 霊の世界 ― 小品集(田中千代松・心霊研究文庫III・1978年(昭和53年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
霊の世界 ― 小品集(田中千代松・心霊研究文庫III・1978年(昭和53年))
『霊の世界――小品集』は、田中千代松が新聞・雑誌に寄せた心霊研究の随筆や小論に手を加えて集めた心霊研究文庫の第三冊で、はしがきは一九七八年十一月の日付である。SPRの成り立ちや催眠術・超心理学の来歴、クルックスやフラマリオンを論じる文章のほか、土井晩翠・河上肇・福来友吉の挿話、平田篤胤が記した仙童寅吉、秋山真之の霊夢などを収める。「エッセイ種々」「群像」「ものがたり回顧」の三部に分け、多くの篇に初出の誌名と年月を添える。