鶏物語
どんな伝承か
市ヶ谷佐内坂に住む旗本の用人某が、主家の費用を作るために平塚在の領地へ行き、村役人の家に泊まった。翌日の午後、庭先をぶらついていると、庭の隅の梨の木の根本で蟷螂が蜻蛉を捕らえて食っている。ひどいことをすると思って見ていると、五、六羽の雛を連れた雌鶏が垣根を潜って来て蟷螂に飛びかかり、ひと啄きで啄き落として雛の前へ投げた。蟷螂が蜻蛉を殺し、鶏が蟷螂を殺すかと、用人は妙な気がして心が落ち着かない。その夜ひと眠りして目を覚ますと、隣の部屋で村役人夫婦が、他に何もないからあの鶏を殺して馳走をしようと話し合っていた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の怪談(二)(田中貢太郎・日本の怪談シリーズ)
『日本の怪談(二)』は、田中貢太郎が著した怪談・奇談の短編集である。著者の郷里である土佐の高岡郡や長岡郡の山村の話を多く含み、越中の放生津や立山、利根川の河口、館林の城下、江戸の碑文谷などを舞台に、蟹や蛇の怪、鮭の祟り、山姑、亡者宿、切支丹の処刑にまつわる怪異を物語の形で書く。「蟹の怪」から「鶏物語」まで二十八篇を収め、友人から聞いた話として語る篇もある。