夜具の下に首だけが残った女
どんな伝承か
女と一夜を並べて寝た侍が、夜明けに女を起こさぬようそっと起き、飯を炊いても女が起きてこないので奥の間をのぞくと、女は枕から頭を落として真っ青な顔をしていた。夜具を捲ると、体はなく首ばかりが寝ていて、切口は血みどろだった。その首は前日、山屋敷の門口の板橋の袂で切られた罪人のもので、重罪を犯した某遊女が、牢の口の桜が咲く頃まで待ってくれと願って死刑が延びていたのだった。検視で事実を話すうち、侍は顔色を変え『あれ、花が散る、花が散る』と叫んで発狂し、座敷牢に入れられた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の怪談(二)(田中貢太郎・日本の怪談シリーズ)
『日本の怪談(二)』は、田中貢太郎が著した怪談・奇談の短編集である。著者の郷里である土佐の高岡郡や長岡郡の山村の話を多く含み、越中の放生津や立山、利根川の河口、館林の城下、江戸の碑文谷などを舞台に、蟹や蛇の怪、鮭の祟り、山姑、亡者宿、切支丹の処刑にまつわる怪異を物語の形で書く。「蟹の怪」から「鶏物語」まで二十八篇を収め、友人から聞いた話として語る篇もある。