洗濯場に映った蟹の鋏の影
どんな伝承か
お種は日浦坂の麓の谷川で洗濯をしていると、名を呼ぶ声がして水面に蟹の鋏のような不気味な影が差した。振り返ると見知らぬ紫の振袖姿の美少年が立っており、また会おうと言って日浦坂の方へ去っていった。少年は積善寺の稚児であろうとお種は思ったが、その後お種は心ここにあらずといった様子でぼんやりするようになった。谷川の水は日浦坂の上にある「ほど落ち」という池から流れてきていた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の怪談(二)(田中貢太郎・日本の怪談シリーズ)
『日本の怪談(二)』は、田中貢太郎が著した怪談・奇談の短編集である。著者の郷里である土佐の高岡郡や長岡郡の山村の話を多く含み、越中の放生津や立山、利根川の河口、館林の城下、江戸の碑文谷などを舞台に、蟹や蛇の怪、鮭の祟り、山姑、亡者宿、切支丹の処刑にまつわる怪異を物語の形で書く。「蟹の怪」から「鶏物語」まで二十八篇を収め、友人から聞いた話として語る篇もある。